〜脳卒中の日記風〜
食事の時間

朝から車椅子で廊下に出ていた。
朝食も廊下で。
ハミガキも廊下で。
窓の外を見やりながら。
人々が通勤のため近くの駅まで歩いて行くのを見やりながら。

その時だ…「ゴリッ！」
な、なんだ！？何の音だ？
舌を使って、口の中をしばらく探ってみる。
下の奥歯に大きな穴があいている模様。
調査は続行。
さらに泡の中を探っていると、ありました、ありました。
虫歯になったところに、銀色のツメモノをして治療完了するでしょう。
あれが取れちゃったんだ。
ちょっと寂しいぞ。
喉の穴がやっと塞がったと思ったら、また歯に穴。
そんなことより、どう直せばいいのだ？
困った、困った。
そばにいた看護婦さんに哀愁をもって言ったのだ。
「取れちゃったんだ、これ…。」

ここの病院は、隣りの建物を合わせて、
一応、総合病院なんだけれど「歯科」がない。
いったい、どうしよう？
「痛む？」
う〜ん、いや、そういえば、たいしたことはなさそうだ。
まさか接着剤で付けるわけにもいかず、
かといって立てないのだから、街中の歯医者へ行くわけにもいかない。
しばらく放っておくしかなさそうだ。
ボクと看護婦さんとの共通見解となった。
でも、あんまり困らなかったような気もするなぁ。

未だ、きざみ食だった。
「早く普通の食事にすればいいのに…。」
何人もが、何度も言うようになっていた。
だけど、ボクは聞き入れなかった。
何故かは分からない。
自信がなかったのかも知れない。
普通の人には分かりにくい感覚かも知れない。
「おっかない」…そんな表現が近いかも。

決心がついたのは、５階に来て１週間ぐらい経ってから。
「明日のお昼から普通の食事にして欲しい。」
なぜ昼か？
それもボクには分からない。
ただ、そう思っただけなんだ。
初めての普通の昼食は「トンカツ」だった。
スプーンとフォークとでは食べにくい。
箸が使えるといいなぁ。
でも、またチョットだけ進歩した。

出来ないと思っていたことが、やったら出来た。
やらないままだったら、出来ないままだった。
やって良かった。
安心した。