〜脳卒中の日記風〜
さよならＮさん

‘９８．１２．９．
その患者さんは、
ボクと同じく気管切開をしている。
いや、
今はもうしていないから、過去形だ。

３階の集中治療室の時は隣同士だったこともあるらしい。
そこでボクの両親とＮさんの奥さんは知り合いになった。
けれども、枕を並べていた記憶はボクにない。
ボクよりも早くに回復して、
そして、一足先に上の階へ。
ボクにとっては、この４階で、
初めて会ったような気分がする。
車椅子に乗って、外を見ながら、一緒に廊下で食事をした。
あちらは常食。
ボクは未だにきざみ食。
でも、早いんだ。
食べるのが。
そして悠々とお茶を飲んでいる頃、
ボクがようやく食べ終わる。

でも、Ｎさんは長く車椅子に乗っていると、麻痺側に傾いてしまう。
肘掛けの内側に枕を入れても、どうしても。
逆に、どうしてボクは傾かないのだ？
ホントに人それぞれなんんだね。

病室も数日、共にした。
昼間は大抵、奥さんが来ている。
うちのおっかさんたちが毎日来てくれるのは、
ボクは本当に感謝しているのだけれど、
それとはチョット違っていて…ねぇ。
いいなぁ。
声は小さいけれど、優しくて、泣き虫。
ある日は、リハビリの先生が厳しくて、
それが逆に喜ばしくて、泣いていた。
こんなピュアさなんて忘れていた。
こんなピュアさを思い出させてくれる。
分かるような気がする。

明日、１０日には七沢のリハビリ病院へ、Ｎさんは行く。
朝の１０時までに。
今日、退院するのは自宅で１泊するためだ。
自宅が２階にあって、階段があって、
歩けないから、それが問題。
朝、１０時過ぎに、若者が何人か来て、
そしてＮさんは帰って行った。
ボクに「頑張ってな！」と言ってくれたような気がする。
奥さんもそう言っていた。
ボクもそう思った。

頑張りようがないのだけれど、
いや、
頑張りようがないほど頑張っているのだけれど、
それでも精一杯頑張ろう。

そして、ボクも家に帰りたくなったなぁ…