〜脳卒中の日記風〜
日米野球

まだボクが集中治療室にいた頃、
看護婦さんがこう言った。
「今夜は日米野球の第２戦があるよ！」
野球は大好きだ。
野球をラジオで聞けるなんて、いったい何時ぶりだろう？
ラジオの細かい文字は読めず、ダイアルを合わせてもらった。
感度が悪く、電波も弱く、盛大にザラザラいうのだが、
野球放送は野球放送だ。
横浜ベイスターズを褒めている。
やっぱり優勝はホントなのだなぁ…実感。

夕方６時過ぎから聞き始め、
ベットで寝たまんま、
ラジオにへばりついていたんじゃないかなぁ。
ソーサが来日していた。
そうそう、大リーグのホームラン王は結局マクガイアで、
７０本も打ったことも、この時知った。
さぞやソーサは口惜しい思いをしたのではないか？
ボクも口惜しい思いをしましたよ。
やっぱりＴＶで見たかったもの。
まぁ、集中治療室なんだから、
ラジオで聞けただけでも良しとしなくちゃいけないけどね。

数日後、隣部屋に移った日からはデーゲームになりました。
暖かい窓際のベットの上で、
ラジオを枕元に従えて。
ボクは野球に夢中。
しかし、８回の、
しかも、いいところにきて、
目がうつら、うつらと…。
そして昼寝をしてしまった。
しまった！
すっかり夢の中。

車椅子の時間だけ、廊下に出ている。
ボクは、
ただ外を見て、
ラジオを聞いて、
髪をおったてて、
座っているわけでは、
決してない。
少し冷や汗をたらしながら、
大袈裟に言えば、闘っているのだ。
ラジオの時報と内容でだいたいの時間は分かる。
分かるだけに余計辛い。
「あと何分で…」なんて心理になる。
鼻からは例のチューブが入っている。
流れてくる液体がなんなのかはよくは分からない。
流動食なんだろう。
看護婦さんが注射器を持ってきたので、
や、やばい…と思ったものの、
それは腕ではなくチューブに刺され、シュッ。
聴診器で胃袋に入っているのかチェック。
なんかの薬だね、きっと。

ある日、昼間の面会の時間に、
おっかさんとばぁさまが、
ドラフトの結果の新聞の切り抜きを持ってきてくれた。
これが何とも見難いのだ。
目の焦点が合わないから、
新聞の細かい記事はまだ無理だった。
でも、ホントは、だいたいはラジオで知っていたのだけれどね。
「見難い！」と言ってしまったんだなぁ。

その後、薄い野球の写真の雑誌をもらった。