〜脳卒中の日記風〜
バンソウコウ

’９８．１１．１２．
目が覚めると、いつもと風景が異なる。
そりゃそうだ、忘れてた。
病室が変わったのだ。
朝日は見えないけれど、
横に窓があるのがいい。
外の風景がもっと良ければ、もっといいのに…
見えるのは、ただビルと空ばかり。

今日の昼の担当は、あら、また、昨日の看護婦さん。
集中治療室での最後の昼の看護婦さんだったから、
２日連続ってことになる。
「ついて来ちゃったョ。」
ボクの方こそついて回っているんじゃないかなぁ？
でも、ボクの意志で、このベットに寝ているわけじゃないけどね！

髪がかわいそうだ、ということになった。
見ていないから分からないけれど、
想像するにポマードを塗った上から、
スパゲティにまぶすパルメザン・チーズのような状態だったのではないか。
ビニールやオムツを頭の下に敷いて、シャワシャワ…というわけにはいかず、
きっと２〜３度シャンプーを振り掛けて、やっと泡が立つような感じだったハズ。
「お客さん、かゆいところは？」
う〜む、看護婦さんには床屋のセンスもいるのか。
「全部です！」と心の中で思った。

看護婦さんは、一生懸命、シャンプーをしてくれた。
ボクは、一生懸命、名札を見ようとしていた。
ようやく人の名前を覚えようと思ったのが、この頃のこと。
でも、この時は不成功。
目が悪いようで霞んでしまう。
だから、この看護婦さんの名前を知るのは、
もうチョット先のこと。
ゴメンナサイ。

髪がそんな感じなわけで、
当然というべきか、
顔もすぐにもベタベタになってしまう。
特にスゴイのは鼻だ。
自分で言うのはなんだけれど、まったく「イヌ並み」なのだ。
これが非常に困る。
鼻から胃袋へ管を通していて、
そこに栄養をとるための流動食を流しているのだが、
この管を鼻のアタマに医療用のバンソウコウでとめるのだ。
ところが、これを１日で必ず代えないとハズれてしまう。
もう１ヶ所、頬でとめるので、
（あるいは、耳たぶ。これはなかなかオシャレだ。）
鼻のバンソウコウがとれてしまったとて、
抜けたりはしないのだろうが、
とても気になる。
だって、それこそ「目と鼻の先」の出来事だもの。
ボクがあまり気にするので、
ある看護婦さんにはヒモで結ばれてしまった。
たぶんウシみたいで、これはこれでいけない。

それでいながら、肌が弱いことも、また事実。
バンソウコウを貼ると、
それは剥がれ、
気になって、
また貼ると、
赤くカブれて、
それがまた気になって…
完全な、そして複雑な、悪循環。
ヒモで結ぶのは案外正しいのかも知れない。

でも、でも、ヤダよ。
やっぱりカッコ悪いよ。