〜脳卒中の日記風〜
さぁ、寝よう！

車椅子に乗りたての頃、
車椅子に乗ること自体が、
たとえそれが１５分でも、３０分でも、
すっごく疲れることだった。
冷や汗を垂らして、座っている。
ベットに戻ると、バタンキュー。
ボクは眠る、眠る。
そして気が付くと、たいてい熱を出している。
「また熱が出ちゃったの？」
心配してくれる看護婦さんが、ありがたい。
自分にはどうしようもないことで。
でも、車椅子を降りて、ベットに寝そべる瞬間は、
ひとつの至福の瞬間だ。
「はぁー」っと息をついて、眠りに落ちる。
自分の首を支えてくれる枕があるって、すごく楽。
熱が出なきゃもっといいのに。

来る日も、来る日も、乗っていた。
一時間に満たない時でも、ボクにはすごく長く感じる。
正直なところ「早く終んないかなぁ」と思ったりもした。
「車椅子に乗るようになると、どんどん回復するわよ」
そう、主任さんは言っていた。
その言葉を信じていたし、本当だった。

ある日、別天地に連れて行ってもらえた。
山がよく見え、紅葉している…綺麗だ。
看護婦さんが５階に行くことを許してくれたんだ。
正午過ぎからちょっとだけ、親の付き添い有りで。
いつも住んでいるのは、３階の集中治療室。
車椅子に乗れても、そこから廊下へ出るくらい。
高いところで、見慣れた山も、見慣れた道路も、一変する。
食事は、相変わらず管を通って、胃袋へ。
まだ、そんな状態。

それにしても、首がすわらない。
背もたれに寄りかかると、何となく苦しく、
かといって、首を前に出すと、グリングリン。
おっかさんは、首を支えているというより、持っている。
ふとした瞬間、涎がツゥーっと垂れる。
麻痺のせいで、口が締まりきっていないのだ。
咳き込むし、ティシュペーパーは必需品。
赤ちゃんはこんな感じ？

オールバック氏がやってきて、
「なんだ、こんなところにいたのか」
ベットに寝ているだけじゃ、行方不明にはならないもんね。
車椅子に乗ったまま、手の運動、足の運動。
下に降りていって、いつものベットに向かってＧｏ！
自分だけじゃ力弱く、踏ん張れないので、
やっぱり肩を貸してもらう。
足を軸にクルッと回れば、概ね成功。
ベットにハマって、靴を脱がせてもらっていた。
大きな赤ん坊…みんなの手を借りて、何とか生活をしている。

そして、眠りに落ちる瞬間、こう言われたのを覚えている。
「さぁ、寝よう！」