〜脳卒中の日記風〜
車椅子搭乗!

 

‘98.11.6.
PTのオールバック氏がやって来た。
午後の1時を過ぎた頃。
いつものようにベット上のリハビリ。
動かされると股と腕・肩がビリビリ痛い。
そして、この日はこの後があった。
「よし!車椅子に乗せよう!」
ベットを立てているだけでも苦しいのに、何たることだ!
1ヶ月半も寝たきりだったんだぞ!…とは叫べない。

オールバック氏は、「ベンツ」と呼ばれている、
青い背もたれ付きの大きな車椅子を運んでくる。
この病院で一番大きいという車椅子。
この後、しばらく「ベンツ」はマイカーだった。
こんなに大きいのは誰も乗らないのかな?
徐々にベットの背を持ち上げられる。
ロケットの打ち上げを待つってこんな感じか。
ボクはみんなに手伝われて、ベットから足を垂らす。
誰かが支えてくれなきゃ座ってられない。

それでも、オールバック氏の肩につかまって、
ヘナチョコだけど、右足よりは利く左足で、
コマの様にくるっと回って、ヨッコイショ。
でも、身体はヘナヘナ。
麻痺側が重い。
地球に重力があるのを再認識する。
内臓すべてにオモリが付いた感じ。
頭が重くて、首がすわらない、グリングリン。
(首から上がもげそうだ)
気付くと麻痺手が肘掛けから落ちている。
(車輪に巻き込まれたら大変だ)
締まりきらない口元から、よだれがツーっと垂れる。
(顔面神経麻痺があるからだ)
すべて、下へ下へ。
身体的に「ツライ」と初めて思った。
もっとも、入院中に、
(「しゃべれない」という精神的なものは別として)
本当に身体的にツラいと思ったのは、この時だけかも知れない。

主任さんは、ボクのおっ立った髪を見て、
「私の趣味はオールバックよ!」と、
あっという間にそうされてしまった。
「口元をしっかりした方が、いい男だわ」とも言われ、
ボクは真に受けて、頑張って口を閉める。
万事整ったところで、いざ廊下へ。
おっかさんがいた。
ばぁさまもいた。
面会時間も終わって、
帰ろうとしているところだった。
とても、とても、喜んでくれた。
まさかボクが病室の外に出てこられるとは。

ボクも嬉しかった。
反面、相当ツラかったんだぞ!

正直なところ、初めて、確かに見るものばかりだった。
ボクは覗き込まれる世界の住人だった。
ボクを看護していてくれている人たち。
ボクが寝ている場所。
ボクがいる部屋。
90度、世界が動いた。