〜脳卒中の日記風〜
抜かれゆく管、入ってくる管

ボクには、いろいろな管が繋がれ、
しかし、それにより生活が成り立っていた。
嫌がる人は多く、勝手に抜いてしまう人も多い。
世間では「スパゲティ症候群」と言う人もいる。
でも、それはあまりに他人事だ。
少なくとも、ボクは、管によって生活が成り立っていたのだから。

お腹が痛くなった日、
バルーン・カテーテルを抜かれた。
これが詰まってしまって、おしっこが溢れたのが原因なんじゃないか？
そう思っていたけど、
「別に異常は無いはねぇ…」と言われて、
「じゃあ何でこんなに痛いんだ！」と思っていた。
その日以降、管を使わず、尿瓶を使うこととなる。

次の日、もよおして、看護婦さんに尿瓶をあてがってもらう。
成功だ。
なかなか出足好調だ。
麻痺すると日頃当然だと思っている感覚まで奪われてしまう。
「したい！」という尿意の感覚が鈍くなるのだ。
だから、調子に乗っているとヒドイ目に会う。
どういう経過だったか詳細は忘れてしまったが（着替えの途中？）、
素っ裸の体の上にパジャマの上着が掛けられていた。
そこで失禁してしまったのだ。
「したい！」なんて全然思わなかったのに、びしょ濡れになって驚いた。
でも、「したい！」とは思わなかったのに、
「してしまった！」という驚きのほうが大きい。

午後には、ＭＲＩの検査があった。
検査の前におしっこをしておこうと思い、
その体勢になったはいいが、今度は出ない。
「したい！」と思うのに、今度は出ない。
「いざとなったらオムツにしていいわよ。」
看護婦さんに言われて、ボクは検査に旅立つ。
幸いにして出なかった。
痰を飛ばすような咳もあんまりしなかった。
看護婦さんに褒められた。
何だかとても嬉しい。

腕のあちこちを、そして時には足をも、
刺していた点滴も抜かれていった。
それは突然のことだった。
「これで点滴終りだよ」と看護婦さんが言う。
体中を刺していた針からの開放。
でも、ボクはあることを心配した。
「点滴が終わっちゃたら、食料はどうなるんだ！」
口から食事をすることを、かれこれ１ヶ月半もしていない。

でも、それは完全な取り越し苦労。
鼻から管（胃カテーテル）が入ってきた…鼻から入って胃に至る。
今、考えると気持ちが悪い。
もちろん、その時だって気持ちが悪い。
さっきまで点滴が吊るしてあったところに、
中身は流動食の入った通称・タンクが吊るされている。
そして、その流動食が鼻先を通過して、胃袋へと落ちて行く。

もちろん、定期的に管は交換される。
ある日、看護婦さんが交換を頑張っていた…が、なかなか入らない。
ゴックン、ゴックン、グニャ、グニャ。
ボクは自分の口の中は見られないので、表現するならこんな感じ。
何度も何度もチャレンジ。
ボクの口ってそんなに入れづらいんだろうか？
そこへ回診のお医者さん登場。
看護婦さんはすかさず、管を手渡し、
お医者さんは、さすが一発で成功。
「先生にやってもらっちゃった。」

こんなボクだが、一度だけ自分で管を抜いたことがある。
無意識だったといえば、それまでなのだが、夢見心地に、
「え〜い、じゃまだ！抜いてしまえっ！」とやったような気がする。
管を抜いて気持ちが良かった。
すっきりした。
でも、幸福な時間は長くは続かなかった。
看護婦さんに見付かって、怒られる。
「今度抜いたら、また入れる時に気持ち悪い思いするんだからね。」

確かにそだね。