〜脳卒中の日記風〜
木曜日ゲホッゲホッ

ボクは気管切開をしていた。
喉に穴が開いている。
（後で見たら喉仏の下のところだ）
空気が声帯を通り抜けないので、声が出ない。
ただ、もちろん、喉の穴は開いたまんまじゃなくて、
そこに部品が取り付けられている。
この部品が気管カニューレ。
そこから痰の吸引と、
そこにホースを繋いで酸素の供給をしているわけだ。

木曜日はこのカニューレを取り換える日だ。
実のところ、未だにどういう部品だったかは定かでない。
（水色のプラスチックのようなものだったと思っているが…）
ベットに寝たまま、頭を動かせなかったので、
首は全く見えなかったし、手鏡も無かった。
何者だか分からないけれど、
とにかく首に付いているのだ。
さらに、当時ボクは自分の首いっぱいに、
小さな穴が開いていると思っていたので、
この気管カニューレでそれら全部の穴を塞いでいると思い込んでた。
だから、取り換えのために部品を取り外すということは、
まったく首がスカスカになってしまうことだと恐れていた。

「さぁ、取り換えましょう！」
看護婦さんが、お医者さんに部品を手渡す。
お医者さんが手袋をはめて、ヨイショ！
喉がスースーする…と同時に、
ゲホッ、ゲホッ、ガホッ、ガホッ。
う〜ん、涙がチョチョ切れる。
吸引もしてるよ、これも痛い。
ドタンバタンと悶絶して、さぁ大変。
ちょっとした運動だ。

喉に穴が開いていた時によく見ていた夢も、
なんだかちょっと関係ありそう。
それは…
２つの大きな山があって、
その下を幾通りもの地下道が走っている。
頂上へと続く地下道。
ベルトコンベアでも導入すればいいものを、
手から手へバケツリレー、投げ渡している。
で、その投げ渡しているものとは…空気なんだ。
喉が詰まってくると、別ルートが開かれる。
でも、だんだんと苦しくなる。
右の山はスッと行くのだけれど、左の山は詰まりやすい。

だが、相変わらず、夢はメチャクチャ。
ボクは病院のベットで寝てはいるけど、野外の公園のよう。
反対側に、移動病院の車両がある。
ある日、ボクはそこへと担ぎ込まれる。
お医者さん３人と、看護婦さんたちまで知らない人ばかり。
注射をされ、薬を大量に飲まされるが、
まだ座席で待たされている。
やっとこ、ベットに戻されるけど、ココはいつもと違った場所。
ココで一晩明かすことになった。
そこへ、夜中に盗賊団が現れる。
えらい騒ぎだ。
ある高貴な人の付き人として、見知った看護婦さん登場。
でも、あと一歩のところで救出されない。
嵐もやって来た。
もう何が何だか分からない不条理な世界。

気付くと、ボクは「ふろおけ」の中でくたばっている。
全然知らない人もいる。
何故か知ってる看護婦さんもくたばっている。
ベットにいたはずなのに、壊れたアパートにいたりして。
そして、再び病院へ運ばれる。
伊豆だか、九州だかの、海を望む避暑地の病院。
もっともカーテンが締まっているので、海は見えない。
そのカーテンが揺れている。
ボクは頭上に貼ってあった紙を見ようと手を伸ばした。
その時、現実の看護婦さんに怒られた。

ぜんぜん境目なんてなかった。