〜脳卒中の日記風〜
手を洗いましょ

 

体調が安定してくると、ベットを立てられ起こされる。
久々に重力を感じる。
これがとても辛い。
すべてがズシンと重い。
辛いというより苦しいというべきか…

左右いずれかを向いたままで、
しかも枕を腰に挟まれてたまま起こされるわけで、
何となく不自然だ。
たまに仰向けのまま起こされる。
これは自然だ。
首はあまり動かないから、片眼で追える範囲で周りをキョロキョロ。
でも、辺りを見渡せるなんて何時振りだ?
一ヶ月以上寝ていたわけで、
詳しいことはよく分からないけど、
働いている看護婦さんが分かった。
カーテンの向こうにも人(患者さん)がいるとも思った。
そう思ったのは、その時が久々なのだ。

さて、ずっと起きていると、
どうやら重力が働いて、ずり落ちて行く。
足がベットからどんどんはみ出して行く。
ずっこけて、顎をひいた体勢になって行く。
「開いている喉の穴が閉まっちゃうんじゃないか?」
ボクは心配。気がきじゃあない。
あがけばあがくほど、裏腹にずり落ちて行く。
やみくもに体勢を立て直そうとしても、ダメなのだ。
ちょっとしたコツがあるらしい。
肩よりも腰を持つ。
ボクも、家族も分かっていない。

ところで、ボクの手の皮はむけてガサガサになっていた。
両手ともガサガサ。
見かねた看護婦さんが洗ってくれた。
洗面器にお湯をはってゴシゴシ、ゴシゴシ…。
手の皮がたくさんはがれて、
お湯を取り換えなきゃいけないほどだった。
全く動かなかった右手を洗うのは、
座った体勢になったといえど、
きっと相当大変じゃなかったかのな?
しかも、熱さはよく分からないんだ。
どれくらいの熱さなのか?
でも、ゴシゴシしている…それくらいは分かるぞ。
おかげで、それで治って、ザラザラにはならなくなった。

そういえば、その後、その看護婦さんに
「夜勤明けはこうなっちゃうんだ…」
と手を見せてもらったことがある。
ガサガサしている。
「ヤバイ!!何か皮膚病でもうつしたか?」
ボクは焦った。

そして、ボクがしゃべれるようになった時、
この時のことを聞くと、
看護婦さんはこうおっしゃった。
「あの時は、あなたの手が垢だらけだっただけだもの。」

なんのことはない…